大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和43年(ワ)1391号 判決

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し、別紙目録記載の家屋を明渡し、かつ昭和四三年一〇月二七日から右明渡ずみまで一月金六、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、別紙目録記載の家屋(以下本件家屋という。)は、原告の所有である。

二、被告は、本件家屋に居住して、これを占有している。

三、よつて、原告は被告に対し、本件家屋の明渡および本件訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月二七日から右明渡ずみまで一月六、〇〇〇円の割合による相当賃料額に等しい損害金の支払を求める。

被告訴訟代理人は、「原告の請求は、いずれもこれを棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、次のとおり述べた。

一、原告主張の請求原因事実を全部認める。

二、しかしながら、被告は原告に対し、次の理由により、本件家屋の賃借権を対抗することができる。

1  本件家屋は、亡梅村滝太郎が一月六、〇〇〇円の賃料で原告から賃借し、被告は右滝太郎の内縁の妻として同居したが、昭和三九年七月三〇日同人死亡後も引き続き居住している。

2  そして原告は、右滝太郎死亡の事実を知りながら、被告から右賃料を受取つたから、原告被告間に亡滝太郎のときと同一内容の賃貸借契約が成立したとみなすべきである。

3  仮に右主張が認められないとしても、本件家屋の賃借権は、右滝太郎の相続人である訴外梅村富子、野々口保子両名に相続され、被告は右両名の賃借権に基づき本件家屋に居住している。

原告は、被告主張の抗弁に対し、次のとおり述べた。

一、被告主張の抗弁1の事実のうち、被告が亡滝太郎の内縁の妻であることを否認する。その余の事実を認める。

同2の事実を否認する。原告は、被告主張の金員を賃料としてではなく、損害金として受取つたのである。

同3の事実のうち、訴外梅村富子、野々口保子の両名が亡滝太郎の相続人であることを認める。その余の事実を否認する。右相続人らは、相続開始後本件家屋に居住したことも、その賃借権を主張したこともないから、本件家屋の賃借権を抛棄したものとみなすべきであり、被告はこれを援用することができない。

二、仮に被告が本件家屋の賃借権を取得したとしても、次の事由により、原告は昭和四二年七月二八日以降数回にわたり、右賃貸借契約の解約を被告に申入れた。

1  転貸借

被告は、昭和四〇年三月三一日から訴外柴田勤に本件家屋を転貸している。

2  正当事由

原告は家族とともに大平洋戦争中蒙彊大陸に移住していたが、本件家屋は、その留守中に原告の伯父が亡滝太郎に対する友情から、一時のこととして、同人に賃貸したものである。その後敗戦により、原告は昭和二一年に帰国し、住所を転々した後、適当な規模の住居が得られないため、昭和三九年六月から、妻および二人の男の子を京都市伏見区向島庚申町四二番地、建坪五坪弱、間数二畳二間、四畳半一間の狭隘な借家に住まわせ、自らは、本職の回教研究と社団法人日本イスラーム友愛協会会長の職務を遂行すべき必要上、やむなく妻子と別居して、同市内の印刷工場の一隅に協会事務所を設けたものの、やがて明渡を求められ、現在回教関係の図書資料約一、〇〇〇点は同市伏見区深草北新町の実姉方に保管を依頼し、住居兼協会事務所として同市同区東浜南町六九四番地の二、土地家屋調査士等を営む築山享方事務所階上約二坪五合を賃借し、多大の不便不自由をしのんでいるのであるが、それも右築山より事務輻輳および事務所移転を理由に昭和四二年夏以来強く明渡を要求され、途方に暮れているところである。したがつて、原告は被告から本件家屋の明渡を受けないかぎり、家族との別居、回教に関する研究および宗教活動上の制約、その他諸々の不便不自由を解消すべき方法はないから、原告にとつて、その唯一の家屋である本件家屋の明渡を受けることは、焦眉の急となつている。

被告訴訟代理人は、原告主張の再抗弁に対し、次のとおり述べた。

一、原告主張の再抗弁事実のうち、原告がその家族と別居していることは認める。その余の事実を否認する。

二、原告は現在その家族と別居しているとはいいながら、それは原告の意思に基づくもので、現状のままでも格別の支障は認められないのみならず、そもそも原告が蒙つているという現在の不便不自由というものも、原告が以前に自己の住居を売却してしまつたことに原因し、結局は自ら招いたものというべきであり、また原告にその意思さえあれば、適当な住居を求めることが不可能ではないのに比し、被告は現在老齢と病弱であるに加えて、最近頼りとしていた同居の三男柴田勤に先立たれ、今さら本件家屋を明渡して新住居を求めることは全く不可能な状況にある。

証拠(省略)

別紙

目録

京都市伏見区深草北新町六四九番地、六五〇番地

家屋番号同町七〇番

木造瓦葺二階建居宅一棟、一階九三・五五三六平方メートル(二八坪三合)、二階八二・三一四平方メートル(二四坪九合)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例